昔、私が子供だった頃の話。
家にたくさんの、みかんが入った大きなダンボール箱があった。
産地は忘れたが、箱の外側には「L」とか、「M」とか書いてあったのを覚えている。
うちは、父親が大変な倹約家であったのに、不思議なことに何故か、みかんや正月の餅は、大盤振る舞いだった。
それはたぶん、若い頃にひもじい思いをした父親が、たまには美味しい思いをしたかったのと、食べ盛りの3人の子供達に食べさせるつもりで、大箱で買ったのだろう。
3人兄妹が、みかんの箱に群がって、母親が開けるのを待っている。
箱が開くと、みかんの良い香りがぷわ~んと広がる。
私達兄妹は、競り合うようにして、みかんを手に取り、頬張った。
誰もが時々、箱の中の在庫点検を行う。
あとどのくらい残っているか。
じゃあ、あとでお風呂から出たら食べよう、などと思っていたら甘い。
先にお風呂から出た兄に、やられていた!なあんて事もあったな。
我が家では食べきれず、箱の底の方に、傷みかけたみかんが残る、などという事はなかったように思う。
今また、みかんの季節である。
スーパーには、色んなみかんが並んでいる。
ずっと以前、「これは、はずれだったな」という果物を買った失敗から、美味しいみかんを買う自信が持てなくて、何となく買い控えをしていた。
でもある日、見つけてしまった!
「有田みかん」と記された袋に、ツヤツヤした綺麗なみかん!
袋の上から少し触ってみる。良い!
皮が固すぎず、サイズも、大き過ぎず丁度いい!
とにかく、見た目もみずみずしい!
…買った!でも10個入り!
久し振りに、みかんを買った。
次の日、朝食のパンとコーヒーに、昨日購入のみかん1個。
美味しい!
水分が多くて、噛めばのどに溢れそう!
何より、すごく甘い!
甘くて、酸っぱい!
味が、濃い!
「当たり!だ」
しばらくぶりに、美味しいみかんにありついた。
それからずっと、同じ店の同じみかんを買い続けている。
今は取り合うことなく、みかんを食すことができるが、「ひと箱買い」は無理である。
食べきれないし、第一に不経済だろう。
何十年も前のあの時代に、ダンボールの大箱買いで、上質な美味しいみかんをたっぷり食べさせてくれた父親が、当時実は高給取りだったのではないかという疑念がある。
倹約し過ぎで、子供達には貧乏意識が芽生えていたし、他にも思い当たる事があるが、今の時代になっても、真似ができない事を思うと、ちょっぴり敬服。
ただ、私は1個のみかんで充分幸せですから…