《本当にあった不思議な話【前編】》からのつづき・・・
明らかに、墓所全体の眺めが、以前とは変わっていたのである。
「整備されてる!」
私もしばらく来れてなかったからなあ…でもいつの間に?!
母も「ええ~っ?どうなっとるん?!」
墓地全体の真ん中に十字路の通路ができており、舗装されている。
小さな古い墓々を、所有者が寄せ墓にしたのか、新しい墓も目立つ。
以前は草をかき分けて目当ての墓まで行ったものだが、それぞれの墓と墓の間もコンクリートで整地され、バケツや柄杓が置かれた水汲み場や、ゴミ捨て場も、新しく数ケ所設置されている。
けれど、驚いたのは、それだけでは無かった!
ただ、区画は昔とあまり変わらない様子だったので、「本家の墓は場所、変わってないよなあ?」と、半ば祈りながら昔の「勘」と言うのか、「感」なのか、「ここら辺から入って、右斜め方向にこのくらい歩けば行き当たるだろう」みたいな調子で足を踏み入れた。
すると、本家の墓らしきものが見えてきた。
でも、なんだか様子が違う!
記憶にあるのは、二段くらい土台を高くした塀に囲まれ、金属製の門扉まで付いた、古くて暗い印象の、北向きの墓だった。
ところが今、目前にあるのは、塀を取っ払い、三段上げた土台の広い敷地に玉砂利を敷きつめ、南向きの青空に向かってそびえ立ち、太陽光を受けて光る、ピカピカの御影石の墓だった!
奥行きがあり、墓石まで確か、平たい二~三枚の踏石(拝み石)も敷いてあった。
間違いなんじゃ?と心配になり、母と共に墓石に刻まれた文字を食い入るように見つめた。
確かに「◯◯家先祖代々の墓」と刻まれている。
横には、建立年月日も刻まれていたが、つい最近の日付だった!
墓の土台敷地内には「碑」もあり、父の長兄やその妻の戒名も刻まれていたので、間違いないという事が判る!
新しい墓は、それは立派だった!
私と母は、感動のあまり「ええ~っ?ほ~っ!?」と、それ以外の声が出ず、しばらく呆然と眺めていた。
はっと我に返り、お線香などを取り出し、祈る。
日々の無事を感謝し、先祖の冥福を祈ると同時に、この新しい立派なお墓に、きっとご先祖様も喜んでおられることだろう、と思いを馳せた。
でも大変な費用が掛かっただろう。他家へ嫁いだ身で、後を管理しているいとこ夫婦がやり遂げたなら、凄いことだと敬服する。
母が「今日は本家には誰も居ないとは思うけど、一応お供えを持って来たし、せっかくだからのぞいてみるワ」と言って、小走りに本家の方角に向かったので、私も慌てて後を追う。
これまた、行ってみて驚いた!
本家では、敷地内に何台もの車が並び、なんと菩提寺から僧侶まで招いた、法要が行われていたのである!
私達が訪問したのは、読経が終わり、取り寄せの膳を広げた会食が始まる寸前であった。
そこに集まっていたのは、当時存命していた父の兄妹と長兄の娘二人やその家族。
つまり、父方の親戚一同だったのだ!
私達は何も知らなかった。
何も知らされていなかった。
父の生前から父方の親族と仲の悪かった母は、父が亡くなった後には、すっかり親戚付き合いを消滅させていたから。
慌てたのは、あちらの方。
連絡もしていないのに、墓参りに来てくれて、お供えまで届けてくれた!
そう思ったのか、バツが悪そうに一同が「どうぞ、どうぞお上がりください!」と急かすように言ったが、私達は呼ばれていなかったのだから、お膳の数には入ってない。
「いいえ、結構ですよ」とお供えの菓子折を渡して、やんわりと固辞した。
聞けば、「◎◎の三十三回忌と△△の百回忌と、新しいお墓の開眼供養を合わせて本日の法要を行った」と言う。
そして、そのために自分達親族だけで、費用を出し合ったと…
私の父は既に亡くなっていたし、親戚付き合いも無く、今さら連絡する必要も無い、わざわざ費用の負担を求めるのもどうか、と思って遠慮があったのだろう。
ここはもう早々に引き上げるべき。
「立派なお墓になって、ご先祖様も喜ばれていますよ」そう言いながら帰ろうとすると、誰かが、「そんなら、これを…」と、お膳のパックを二つ包んで、持って帰れと迫ってきた。
「いえいえ、結構ですよ。余分は無いでしょう?」
誰かが自分の分を食べずに差し出したのだ。
どうしても持って帰れと、引き下がらないので「ここは受け取らないと、あちらも格好がつかないのだろう」と思い、頂く事にした。
玄関口を出ると、皆が出てきて見送ってくれた。
久し振りに会った従姉妹達とも、ひと言ふた言、言葉をかわす事ができて、母と二人、今日の不思議を噛みしめながら、帰宅の車の中では無言というか、ため息ばかりの道中であった。
ただこの日、私達と父方の親族との、こころが通じ合ったような気持ちになった。
きっとご先祖様が喜んでおり、新しくなった立派な墓を、私達にも見せたかったのではないか?
そんな気がしている。
長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました!