ダイアナ妃の映画と言っても、その一生の物語ではなく、1991年のクリスマスの3日間に特化して描かれている。
そう…、ダイアナが離婚を決意した時期、に焦点を当てた物語。
映画が始まってすぐ、画面下方に字幕が出た。
『事実に基づいた寓話』
【寓話】とは?
比喩によって人間の生活に馴染みの深い出来事を見せ、それによって諭す事を意図した物語。…
映画には、スペンサー家の遠縁である、アン・ブーリンという、夫のヘンリー8世により、別の女性と結婚したいがための無実の罪を着せられ、処刑された悲劇の王妃が幽霊のように出て来る。
他にも、既に閉鎖されたスペンサー家の古い屋敷の中で、夫チャールズから送られた(カミラにも同じものがプレゼントされている)ネックレスを、引きちぎるシーン。
走る幼いダイアナ。走る青春期のダイアナ。そして走る、ハー・ロイヤル・ハイネス。
この映画には、たくさんの比喩が描かれている。
でも、それの答えを見つけられるかどうかは、観る人の心にかかっている。
二十歳で結婚したダイアナは、まだ幼さの残る愛らしい女性に見えた。
ところが、結婚後に判明した夫の不倫。しかも結婚前からの仲という。
古い王室のしきたりにも馴染めず、愛されない孤独と不安を募らせるダイアナ。
過食や嘔吐を繰り返し、だんだんと奇行も増えていく。
唯一の癒やしは、2人の王子、息子ウィリアムやハリーと一緒の時間と、わずかな王室スタッフとの語らいだけ。
それでもダイアナは、ついに決意する。
この映画を見終わった後、私は自分がとても緊張し、疲れていた事に気がついた。
嘔吐シーンや、夜中に厨房に入り食料をむさぼるシーン。
王室が集まる行事に、たびたび遅刻するダイアナ。
常に不安とプレッシャーに苛まれ、壊れていきそうなダイアナ。
胸と背中が、締め付けられるように痛んだ。
私とダイアナとは年齢が近い。
どちらが上か下かは、ちょっと置いといて…。(永遠に置いといて)
とにかく、つまり生前のダイアナを、その都度リアルタイムの報道で見てきた世代である。
世紀の結婚式や公務にいそしむ姿。パパラッチに追い回される様子。別居や離婚のニュースに、その後の慈善活動。
彼女がエイズ患者と素手で握手した時の映像や、ヘルメットをかぶって地雷原に入る姿が、世界中にどれほどの衝撃を与えたかなど、はっきりと覚えている。
悩まされたパパラッチの執拗な追跡と報道を逆手に取り、ソレを利用して、解決されない問題へと、全世界の目を向ける事に成功した。
私はお先に離婚していたが、ダイアナがふくよかであったり、やせてギスギスしていたり、チャールズと二人で居るのに、ぎこちない不自然な様子であったり、と。
逐一報道されるおかげで、私たちでも彼女の様子が変化していくのは見てとれた。
ある日突然報道された、ダイアナ事故死のニュース。
『イギリスのバラ』と呼ばれたその人を、失った世界中の人々の衝撃は、凄かった!
イギリス政府の陰謀による暗殺だったのではないかと、テレビや週刊誌で、まことしやかに報道されたが、あれから25年…。
イギリス王室のニュースを見るたびに…、ウィリアムとキャサリンの子供達を胸に抱き上げ、微笑むダイアナの姿を見てみたかった…と。
そう思うのは私だけじゃない、ってことは勿論知っている。