略して『エブ・エブ』!
紹介記事とか予告動画などで、心の準備をしてから観に行ったけど、それが無かったら、とんでもない変てこな映画だと思っただろう。
いや確かに、ヘンテコな、映画なのである。
映画製作の云われは専門の批評家達に任せるとして、私は独自の解釈をしてみた。
あらすじは簡単に書くと、こうだ。
中国系アメリカ人の中年女性、主人公エヴリンは、経営するコインランドリーの赤字と税金申告に苦闘し、頑固な父親の介護や思春期の娘との関係複雑化に苦悶。夫は優柔不断で頼りない…という、こんな生活に疲れ果てていた。
それがある日突然、夫に『違う宇宙の夫ウェイモンド』が降臨!「全宇宙の敵、強大な悪を倒せるのは君しかいない!」と言われ、エヴリンはマルチバースの自分とリンクして『バース・ジャンプ』という能力を手に入れ、カンフーの達人となって戦いに挑み、最後には家族の絆を取り戻す。
これだけでは解らない?いや映画を1回観ただけでは解らない。
『エブリシング』と『エブリウェア』と『オール・アット・ワンス』の3パートに仕立てられていて、知らずに観ていたら、「あれ?こんなんで終わり?」って驚いたけど、すぐ次が始まって…みたいな感じ。
頭の中を整理するヒマはない!
でも結局最後には、泣かされますな。
主人公エブリンを演じた、『ミシェル・ヨー』が素晴らしい!
私が最初に彼女を観たのは、映画『グリーン・デスティニー』(2000年公開)。
この映画で、キレッキレのアクションを見せつつ、切ない愛を秘めた女性を演じた彼女の知的な美しさに、羨望を覚えたのを記憶している。
だから今回も彼女の映画だから、観てみようという気になったのだ。
偉そうな気持ちではなく、自分が観る映画を選ぶ時、何を基準にするかという話。
『テーマ』か、『俳優』か、『監督』か?
私の場合はたいてい、『俳優』が第1だ。
今回、夫役ウェイモンドを演じた、『キー・ホイ・クァン』は、映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年公開)に子役として出演していたから、顔は覚えていたけど、最近は武術指導のほうの専門家になっていたらしい。
時の流れを感じてしまった。
インタビューで監督コンビ・ダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)が答えている。
創造においてポイントにしているものは、『ダークなユーモア』。情報を脳にダウンロードして、マルチバースのアイデアを掛け合わせる。するとジャンプもできるし、能力を発揮する事もできる。『同時に違う場所に居る事ができる』し、『何かを求める気持ち』と『後悔する気持ち』を同時に持つこともできる。そんな風に設定を考えるのは楽しい。(参考記事は下記のリンク)
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス インタビュー: キー・ホイ・クァンの起用は何故? ダニエルズ、カオスな映画に込めた真摯な思い - 映画.com
他にも、マルチバースを描いた、海外ドラマがある。
『THE FLASH/フラッシュ』や『スーパーガール』など…。
ただ、それらに描かれているのは、違う宇宙に存在する、自分とは生い立ちから違う、瓜二つであっても全くの別人格、というのが多いと思う。
けれど今回のこの映画には、若きウェイモンドがエブリンを迎えに来た時、そのタクシーに乗らず、駆け落ちしなかった場合のその後の人生で、それぞれが違う道で成功している姿で出会い、というシーンが出て来る。
その時の自分の脳にリンクしたエブリンには、『何かを求める気持ち』と、『後悔する気持ち』が同時にあった、のではないか?
内容は、勘違いしているかもしれない。もう1回、この映画を観たら解るのかもしれない。
でも、私がこの映画から受け取ったものは、このようなもの。
人生とは複雑だ。
思い通りにはならなかった。
あの時、こうしていれば…とか、こんな事しなければ良かった…等々。
『何かを求めて』生きて来た。今でも求めている。
けれども『後悔する気持ち』も強く、もはや『諦め』の境地ですらあるかもしれない。
だが、やっぱり今現在を大切に生きよう。
救いようのない悪の淵に落ち込んでしまう寸前に、娘を救い出し、ありのままの娘、ゲイの娘を認め、受け入れたエブリンが示した、母としての愛情と強さ。
そして、最後に恐ろしい税務職員を理解ある人情びとに変えたのは、なんと優柔不断な頼りない(はずの)愛すべき夫。
そうして人々は、戦いを手放し、お互いを認め合って、それぞれが大切にしているものをもまた認め合う…そんな社会が訪れる。
この映画にはたくさんの事柄が詰め込まれている。
アメリカにおける、アジア系移民の生活の苦労。
介護の問題。ジェンダーのこと。
そしてこの映画が、実際のハリウッドにおける、アジア系女優への差別をはねのける結果になったかもしれない事!
事実、この映画で、『ミシェル・ヨー』は、第80回ゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞(ミュージカル/コメディ)を受賞した。
そして、夫役ウェイモンドを演じた『キー・ホイ・クァン』は、第80回ゴールデングローブ賞の最優秀助演男優賞を受賞した。
自分にはもう何もない、とか、もう何もできない、なんて思っている人間でも、もしかしたら自分が思っているより、本当はもっと強いのかもしれない、などと感じることができる!
マルチバースのあらゆる自分を認める事ができたなら、今の自分をも肯定する事ができるだろう。
目の前にある事、あるもの、そして人を大切にしよう!
今の自分も大切に…!
映画は、そんな風に語りかけてくれている。
(…かもしれない。シロウトの映画勝手評論ですから。)
(書き始めると長くなる病が進行中!)