ネット記事で「あの時はありがとう」というのを読んだ。
いくつか読んだ。
そこでふと、自分にとっての、そんな思い出を、ひとつ書きたくなった。
ただ、あちらに投稿するより自分のブログでいい、と思った。
今から、ウン10年前の話である。
私がまだ二十歳になるかならないかの頃、同じ大学の友人に誘われて、ドライブに出かけた時のこと。
真冬の寒さ厳しい、雪がちらつく日だった。
友人は、「もっと西部の方に行ってみたい」と言う。
私は、「今日は近場にしとこうよ」危ないからやめよう、と何回も言った。
同じ県内でも、市中心部と西方の郡部では、天候がまるで違う時がよくあった。当日もニュースの天気予報では「西部は積雪・凍結注意」と言ってたし。
今ももう、雪が降り始めてる。
でも友人が運転する車だ。言っても聞かないし、仕方なしに付き合う。
国道を西に向けて走り出したが、県西部の途中で、雪がますます激しく降り出し、道路は所々すでに凍結している様子。
私が「これはダメやね、もう戻ろう❗」と言って、さすがに友人も、夏タイヤのままでは無理だと諦め、Uターン。
しかし、凍結した道路をたくさんの車が、ノロノロ運転で渋滞状態。
ここは山間部で、左側の路肩の端のガードレールの向こうは崖になっており、そのはるか下を川が流れていて、そのまた向こうには山々が見える。渓谷だ❗
ところが突然、車体が横に振れだした。
助手席で、私は思わずドアの手すりを握りしめ、硬直状態❗
友人が叫ぶ❗
「スリップしてるっ❗」「ハンドルが効かないっ❗」
車は後部を右へ左へと振りながら、左側の路肩に斜めに乗り上げ、ガードレールが目の前に迫った❗
「うわーっ❗落ちる、落ちるーっ❗」
スリップの勢いが止まらず、このままガードレールに突っ込んで、崖下に墜落する、と思われた。
…でも、落ちなかった❗
車の両方の前輪は乗り上げたが、辛うじて後輪が路肩に引っかかり、車体はガードレールの1ミリ手前で停止したのである。
助かった❗
ホッとしたのも束の間。これをどうする❓
友人がハンドルを握り、アクセルをふかしても、車輪は空回りするだけ。
友人は、チェーンは載せてない、と言った❗オーマイガーッ❗
顔を見合わせ、「とにかく、レッカー車を呼ばないと…」と言っても、携帯電話も無い時代。
私達の乗った車がスリップしたのを見て、後ろの車は停止していたから、追突するとか、されるとかは無かったので、そこは安心したけれど。
ここは国道と言えど、山間部。雪が吹きすさぶ…寒いぃ~~っ❗
緊急通報の電話とか、公衆電話とかは、どこにあるの❓
後ろの車列も、ユルユルと動き始めた、私達を置いて…
どうしたらいいんだ❓という顔で、立ちすくんでいたと思う。しかも薄着で。
何気なく、後ろから来る車列に目をやると、何とパトカーが近づいて来るのが見えた。
「ああ、良かった❗きっと助けてくれる」そう思った。
だが、ウブなハタチ前後であった私達は、手を振るとか、叫ぶとか、助けを求める「アクションを起こす」という事ができず、パトカーの方を見つめて、お上品に(❓)ボーッと待っていた。
すると、「なんということでしょう❗」
パトカーは、見て見ぬふりをして、スーッと行ってしまったのである。
スリップ事故は、一目瞭然なのに、何の声掛けも無く、全くの「無視」をされたという。
「アンビリバボーッ❗」本当に、信じられなかった❗
警察官も、寒いからヤダーッ❗って思ったんだろうか❓
ところが、その直後、これまた信じられない事が起こった。
私達が呆然とパトカーを見送っていると、一台の車が近づいて来て停まった。
中から男性がひとり降りて来て、「スリップしたんですね、チェーンありますか❓」と聞いてくれたので、「無いんですよ」と答えると、自分の予備を出してきた。
そうして慣れた手つきで、こちらの車の一部の車輪にチェーンを取り付けると、「これで少し車を動かしてみてください」と言う。
とにかく車を、路肩から降ろさないといけない。
友人がアクセルを踏み、その男性と私で車体の前部を、力いっぱい押し下げる。
動いた❗
車は、何とか四輪とも路上に着地することができた。どこにも故障は見当たらず、そのまま乗って帰れそうである。
「ありがとうございました~❗」と、友人と泣きそうになりながら、何度も頭を下げる。
名前や連絡先を聞いたのだが、「いや、気にしなくていいですよ」と言って、教えてもらえなかった。
男性は三十代だろうか、割と若く見えたが、また慣れた手つきでチェーンを外すと自分の車に乗り込み、さわやかに去って行った。
信じられなかった❗
こんな人が居るのか❓居るんだ❗
悪天候の、雪が降りしきる中、利益も無いのに凍えながら作業をやってくれて、しかも連絡先も言わずに去ってしまうなんて❗
私は友人とまたも顔を見合わせ、「なんていい人なんだ❗」
信じられない❗こんな人が、この世の中に居るなんて…❗
その後、凍結道路をノロノロと、慎重に走りながら私達は、何とか無事に帰宅する事ができたのだった。
ジェットコースターのように乱高下した、この日の感情。
「突然の死への恐怖心」、そして「警察への不信感」、最後に「助けられた感動」と共に、忘れる事ができない思い出となった。
あの男性は、今頃どうしているだろう❓
ご存命であったとしても、かなりのご高齢かもしれない。
あの時の感謝の気持ちは現在も、記憶のスミで生きている。
天候や車の整備不良を無視してワガママを通し、その車に大切な(❓)人間を平気で乗せて、夏タイヤで凍結道路を走るような人とは、距離を置くことにした。
「人生は捨てたもんじゃない❗」っていう事と、「友人は選ばないといけない❗」という教訓を、本日は改めて実感しているところである。
早く暖かくなればいいな